合宿にも参加されたHさんですが、
バグパイプ本体と衣装を手にしてからというもの「飛ぶ鳥を落とす勢い」くらいハマっていて、
その努力と研究熱心さには眼を見張るものがあります。
彼が手にしているバグパイプは、C.E.Kronというアメリカのニューヨークにある割りと新しいメーカーです。
デザインは細かい部分に個性が感じられます。
合宿でHさんに「ブローパイプにヒビが入っているのですが…」と言われました。
クラックはあるもののまだボアまでは貫通はしていないので、取り敢えず騙し騙し使っていただきました。
ということで、早速ブローパイプを預かり補修することにしました。
まずは観察です。
マウスピース基部あたりからブローパイプの中程まで、クラックが一筋入っています。
恐らく、オイルの浸透がまだ十分に行なわれないまま使い込んだため、水分の吸収と蒸発を繰り返した影響が出たのでしょう。
アフリカン・ブラックウッドに限らず、木は育った環境などの影響でいろいろ個性が出てきます。
木から木材となってからも「生きている」ので、湿度や温度によっても膨らんだり縮んだりしています。
同じ木から材木にするにしても、木取りする部分とカットの仕方によっても大きく異なります。
Mさんのパイプのように30年近く手入れされなくとも平気なアフリカン・ブラックウッドもありますし、ちょっとのことでイジケて?割れてしまうものもあります。
これはもう個性の違いと捉えるしかなさそうですね。
以下の補修はあくまでもKoiwai のやりかたですので、もっとベストな方法があるかもしれません。
①まず、補修したい部分の周囲の油気を完全に取ります。
このパイプはニス仕上げされていないのと比較的オイルはまだ染みこんでいないので、ペイント薄め液を筆を使ってシャブシャブと表面を洗います。
②アフリカン・ブラックウッドを粉状にしたものを、クラックの中に詰め込みます。
極力クラック以外に付いた粉は筆などで綺麗に取っておきます。
③細いノズルが付属した瞬間接着剤を、なるべくクラックだけに流し込みます。
細心の注意を払いながら少しずつ流しこむのがコツです。
④接着剤が完全に乾いたら、カッターや歯医者さんで使うようなスクレイパーで表面の余分な接着剤の固まりを削り取ります。
⑤装飾されている溝を中心に、真鍮ブラシで念入りに接着剤の屑を払います。
凹凸の隅に少しでも接着剤の屑が残っていると見苦しいので、残っている場合は削り取るか切り取ります。
⑥サンドペーパーの♯400または600→1000→2000で、補修しているあたりを順に丁寧にならします。
この時注意したいのは、一気にサンドがけしようとはせず弱い力でゆっくり丁寧に時間をかけることです。
また、曲面に沿って行うので、余計な部分を削らないようにサンドペーパーの大きさと持ち方を変えながら作業します。
⑦ペーパーがけがある程度できたら、コンパウンドで丁寧に磨いていきます。
メリヤスに大量にコンパウンドを付けて一気にやろうとはせず、ほんの少量を付けて一箇所ごとに艶が出てくるまで何度なんども繰り返します。
磨き終わったら、溝に残ったコンパウンドをブラシで取っておきます。
⑧ひび割れを防ぐために、リンシードオイル(亜麻仁油)または桐油などの「固まる植物系オイル」を筆ですり込んでいきます。
表面だけでなく内部(ボア)もたっぷり吸い込ませてあげたいです。
乾いたら手と指だけで何度もこすり、油気が無くなってきたらまたオイルをつけ乾燥させます。
この段階(オイルが木に染み込み硬化して酸化皮膜をつくる)ではかなり時間を必要とするので、焦らないことが肝心です。(画像は1回目の塗布)
また厚く塗りすぎてしまいがちなので、オイルの粘性を下げ(サラサラタイプのオイル)、徐々に下地が出来てきたらこれらのオイルはストップします。
完全に乾いたら、溝に埋まって固まったオイルを削り取ります。
あとは落ち着くまでは様子を見ながら使用します。
普段は、表面の油気が無くなってきたらボアオイルやオリーブオイルを与えていれば大丈夫かと思います。
とかくブローパイプは水気に晒されやすいので、マウスピースのねじ山周囲と底辺、内部は重要です。
また、ブローパイプに限らず、連結するブローパイプ・ストックの内部にもオイルを忘れないで下さい。
パイプのボアを覗きこんで「カサカサ・白っぽかったら」オイル時と考えて良いでしょう。
オイルをあまり与えてはいけないという声もありますが、Koiwai はあげないより与えたほうが良いと思っています。
ただ、必要以上にあたえてもあまり意味がないのも確かです。
各々の木が持つ性格もあるので、まずは普段からパイプへの観察が大切だと思います。
いつもながら見事な手技。
本物見たことないですけど、Kron のパイプってよさげですよね。
勝手ながらこの記事、私のBBSでも紹介させてもらいました。
パイパー森さん
有難うございます!
森さんにそう言っていただけると本当に嬉しいです。
ただ銃床作りからの応用でやっているので、もっと的確なやり方があるかと思います。
C.E.Kronのパイプはなかなか良いですよ。
ドローンのベルが全く反っていなかったり、フェラルとの境がわずかに膨らんでいるなどデザインが独特です。
BBSで紹介くださったのですか!
なんだか恥ずかしいですが~有難うございます♪
すごいですねえ。それと、ゆっくり、ゆーっくりと楽しんでいらっしゃるのが伝わってきます。割れたパイプを見たことがないのですが、これから気をつける、というより、少しばかり恐ろしくなってきました。
bugpiperさん
コメントありがとうございます~
有難うございます。
すごいだなんてお恥ずかしいです。(汗)
神経使いながらの作業ではありますが、割りと無意識に楽しんでいるのかもです。(笑)
人様のいろいろなパイプに触れられるのは本当に幸せですね。
全てのブラックウッドが簡単に割れる訳ではありませんので、これはもう運かもしれません。
ただ、日頃から大事に扱っていればまず割れることはありませんのでご安心してください。
急激な温度と湿度の差が合わさった時の状況が大敵です。
イミテーションアイボリーでよく使われている合成樹脂は、衝撃で簡単に欠けやすいですので、むしろこっちの方がリスクが大きいですね。