ガイタ(スペインのバグパイプ)の修理

先日E様より、スペインのバグパイプ「ガイタ」の修理とメンテナンスの依頼を受けました。

ブローパイプのバルブ(空気弁)がダメになってしまったのと、リードが鳴らないという事でした。

私は以前、友人のKojikojiMohejiさんからガイタを見せていただき、また吹かせてもいただいた事はあるのですが、

修理やメンテまではやったことはありませんでした。

カタチは違えど同じバグパイプ…何とか直してさしあげようと思いました。

↓E様が予め送ってくださったガイタの画像です。

それから数日後、送っていただいた荷の中身を拝見。

スペインのとある所で購入されたというパイプとご対面しました。

木の材質は「くし」に使われているツゲ材(ボックスウッド)で、しっかりとした造りになっています。

木の持つ雰囲気ですが、木目は殆ど無くとても温かみがあります。

また、ブラックウッドとは違う硬さを感じました。

バッグカバーの色と質の良さも印象的です。

同じバグパイプでも、ハイランドパイプと比べて大きさ・形状など結構違うので、とても興味深いですね。

さてまずは各パイプのボア内が乾燥しすぎて潤いを欲しているので、たっぷりとオイルを与えます。

昔何かのCMにあったように「しみ込むしみ込む」って感じです。ガイタ君とても喜んでいるようです。

オイリングが一段落したところで、次に問題の空気弁に取り掛かります。

画像でバルブが付属しているのですが、実際はありませんでした。恐らく経年変化で痛んでしまったのでしょう。

一般的なゴムシートと銅板を使ったバルブを代用しても良かったのですが、私はあえてハイランドパイプで昔から使われてきた方法:革製バッグの余り革を用いたバルブを自作して取り付けました。

ツゲ材は硬いので、バルブをはめ込むための溝彫りはそれなりに時間を要しました。

時々油分とワセリンを塗っておけば、ゴムシートより丈夫なので長持ちします。ボア内へのオイリングも楽に出来ます。

ドローンリードの調整をする前に、マウスピースにゴムチューブを付けました。

木製のマウスピースを直接歯で抑えるのはダメージ与えもったいないのです。

さてドローンリードの調整ですが、リード自体はハイランドパイプでも使われている葦製のリードです。

大きさがテナードローンのそれと近いので、まずは試しにこれを使って調整しました。

むしろガイタのよりも調子よいのには思わず笑ってしまいました。これほどまでに相性が良いなんて!

左が本家本元、右がハイランドパイプのテナー用です。(画像では双方に遠近感がかかっています)

お次はバッグの空気漏れ対処です。1ヶ所ストック付け根から空気漏れを起こしていたので、テーピング処理しました。

ついでにバッグの縁で弱っていそうな部分も、保険として目止めしておきました。

一般的な革製でなくゴム製だったので、シーズニングの必要もなく返ってテーピングにはうってつけでした。

最後はチャンターリードです。

リード自体が経年変化で痛んでしまっているのもそうですが、チャンター自体が途中から右(奏者から見て)に反り返ってしまっています。恐らくスペインと日本の気候に差があるのでこうなってしまったのでしょう。

ガイタ君のチャンターリードだと普通に音が出ません。ならばハイランドパイプのリードを流用してみようと思いました。

幸い、チャンターリードも大きさ・形状がとても良く似ているのです。

はじめにハイランドパイプのリードをガイタ君のリードと同じくらいになるように、真鍮製のパイプ部分(ステープル)を5ミリばかり切り詰めます。そしてある程度リード自体を削って音圧を和らげます。

試しにパキ製のリードを試したところ、無改造で良い手応えを感じました。

手前からガイタ→切り詰めたハイランドパイプ用(シェパード製)→パキ製です。

結構いい感じに音が鳴っていますが、ただどうしてもハイランドパイプで言う「LowA」の音から下が割れた音になってしまいます。

これだけチャンターが反っているということは、音にもかなりの影響を与えているはずです。

このままではらちがあかないので、荒療法ですがスチームを吹きかけて反りを戻すことにしました。

ヤケドに注意しながら、しばらく吹きかけては反りの逆方向に圧力を掛けていきます。

この時力任せはいけません。木の弾力を利用して「繊維の伸び」を感じつつ力を与えていきます。

割れるであろう力を100としたら、80くらいの感覚で行います。

少しずつですが戻ってきました。余分な水分はしっかり拭きとり、磨いて艶を復活させます。これで一晩様子を見ます。

翌日戻り具合をみたところ、若干戻っていました。

今度は水蒸気ではなく、ガスの熱でやることにしました。この場合火は一番弱くして距離を置き、細心の注意で熱します。

すかさず曲げ修正を行い、何度も反り具合を確認します。余熱がかなり残るので、それだけ作業には都合も良いのです。

チャンターの外部と内部に軽くリンシードオイルを与えから手で磨き、その後布で軽く拭き取ります。

完全にまっすぐな状態には出来ませんが、最初と比べればかなり改善できました。

パッと見は曲がっているようには見えません。そして予想通りチャンターの全ての音が出るようになりました。

KojikojiMohejiさんには、作業途中でガイタについてのアドバイスも頂きました。有難うございます!

もしもリードなど必要な場合は宜しくお願い致します。

3件のコメント

  1. Iさん

    世界には色んなバグパイプがありますよね。

    そんな一つをここで見れるとは思いませんでした!

    LowAの位置が少し右手よりですがバールはやりやすいんでしょうか?
    気になるポイントですねφ(.. )

  2. Iさん
    コメントありがとうございます。
    世界中にバグパイプは数多くの種類がありますが、構造的にはガイタとハイランドパイプはとても近いと思います。
    このガイタはドローンが1本ですが複数もあります。
    私は当然のようにバールを試してみましたが、やはり斜めでは思うように出来ませんでした。
    音色はハイランドパイプと比べると明るいですね。材質にもよるのでしょうが、“スコットランドの音”とは違い陽気な感じがします。
    私の気になるポイントですが、もしもケヤキ材で作ったら「日本的な音色」になるんでしょうかねぇ?

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