30年以上前のバグパイプと木製ケース

先日、「30年前に楽器店でバグパイプを買いましたが、吹けずにいます。どうしても吹いてみたいのですが、空気が溜まらないのでメンテナンスをお願いします。」との依頼を受けました。

いったいどんなパイプなのかと到着を楽しみにしていました。

ダンボール箱を開けると木製のケースが…瞬間的に「スコットランド製に間違いない」と確信しました。

ケースはずっと放置されていたみたいで、木部はカサカサで艶がなく金具類も錆びついていました。

取っ手を掴むと縁がボロボロ剥がれてくるではありませんか!取っ手の材質は合成皮革なのですが、劣化でかなりやられています。

ダンボール箱からそっとケースを取り出し、まずは中身を確認することにしました。

各パーツが丁寧にパッキンされていて、パラゾールまで入っています。

まず初めにチャンターから…カップの下にMcLEODの刻印がありました。

またまたまたMcLEOD。ホントこのメーカーのパイプとは縁があるんだなぁ…

このパイプの装飾はイミテーションアイボリーとステンレスで、全体的に殆ど傷のない素晴らしいものでした。

ソールやマウント、リングキャップなどに使われているイミテーションアイボリーの材質ですが、このパイプのような「クラシック的」なものは「Catalin」と呼ばれる1920年代くらいに生まれた合成素材を用いている場合が多いです。

この材質の特徴は、経年変化で色合いがどんどん変わっていく事です。

削り出された当初は殆ど白く、時間が経つにつれクリーム→黄色→山吹色→オレンジ色→赤茶色のような感じで変化していきます。

このパイプはかなりオレンジが濃く、部分的は赤茶色のようなところもあります。

おそらく空気による酸化や紫外線?の影響かもしれないのですが、結合部分などはまだ色が薄いです。

一通り取り出して早速作業に入る事にしました。

まずは革袋へのシーズニングをと思ったのですが、革袋は乾ききって固く縮んでいてバッグカバーまでくっついているようです。これがなかなかはずれないんですね。やっとのことでバッグカバーが取れたので、次はコードも取ってしまいます。

どちらもウールで、カバーの柄は「ロイヤルスチュアート」のタータン、コードの色はタータンに合わせてあります。

どちらもお疲れ気味で、特にバッグカバーはあちこち虫喰いの跡がありました。

ロイヤルスチュアートのカバー、懐かしいですね。昔バンドにいた頃はこれでした。

革袋へのシーズニングは1回では納得できず、革袋の中が落ち着いてきたところで違うメーカーのオイルを使いました。

余分なオイルを垂れ流ししている間にブローパイプとマウスピースへの作業に入りました。

ブローパイプのバルブ(空気弁)は昔ながらの革で出来ていますが、メリットは感じないので取ってしまい新たに「Little Mac」バルブ(画像右側)が付けられるようにブローパイプ根元の内径を広げました。

お次はマウスピースのカットです。どう見ても日本人の体格には長すぎるので、オーナー様の身長をお聞きしたうえでカットさせていただきました。おおよそ4センチカットというところでしょうか。そしてゴムのプロテクターを被せてブローパイプは終わりです。

あとは各パイプの接合部のヘンプの取り替え・テーピング、内径内へのオイリングです。

チャンターは30年以上とは思えない程新品そのもので、時間が止まっていたような具合です。

チャンター以外のアフリカンブラックウッドの木部自体はニス仕上げとなっているので、軽く艶出しを行なっただけです。

金属製のフェラル部分は念のため艶出しと防錆を行いました。

ボロボロになってしまったカバーとコードではこのパイプが余りにも可哀想なので、手許にあった新古品のカバーと新品のコードをお付けしました。

あとこれは依頼されている訳ではないのですが、「全面的にお任せします」との事でしたので、木製ケースも手がけることにしました。

1目見ただけで貴重な?バグパイプ用の木製ケースとわかるので、このままではいけないと思いました。

気になっていた取ってを分解したら結構やられています。

金属金具の錆や汚れも取りました。でもどうしても深く入り込んでしまった錆までは無理なので防錆剤をたっぷり付けました。

内張りの汚れを取り除き、めくれてしまった部分も補修しました。

最後は待ちに待ったケースの木部です。しっかり汚れを拭き取り亜麻仁油を使ってのオイリングと研磨を行いました。

半日直射日光と風に当て、ある程度乾いたところで磨きに入ります。そしてまたオイル→磨き→乾拭き…

一応一連の作業は終わりました。

これでパイプとケースが喜んでくれると嬉しいです。

4件のコメント

  1. FarEastPiper

    ここでは初めましてになります。

    新たに1台のパイプが吹ける状態になったのですね。
    ポリペンコでもそれなりの音は出ますが、こういったクラシックなものもいいですね。

  2. FarEastPiperさん
    お初のコメントありがとうございます。
    そうですね。吹かずにずっとしまわれていたパイプって独特の空気を感じます。ホントです。
    私はパイプを甦させる事が好きなので、やっていて楽しいですね。
    パイプでしたら何でも好きですが、特にクラシック的なものは「古き良き時代」を感じさせてくれます。

  3. おお~、すごいメンテナンス業ですね!
    さすが、岩井さんならでは!

    また近々お会いしましょう!

  4. nabezoさん
    コメントありがとうございます。
    すごいだなんて…たいした技術ではないので恥ずかしくなりますよ~(汗)
    ぜひぜひお会いしましょう!!

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