David Nail チャンターの修理

昨年10月に行なわれたハイランド・ゲームズのコンペで知り合ったMさんから、「チャンターを直して欲しい」とのご依頼を受けました。
お話だと完全に割れて分離していることもなく単なるひび割れでしたので、いつものごとく割れ部分を接着しその周囲をサンディング、ポリッシュで完了だろうと甘く捉えていました。

すぐにKoiwai のもとへDavid Nail のアフリカン・ブラックウッドのチャンターが送られてきたのですが、確かにひびは2~3箇所の「軽度」でした。
いったんはセオリー通りに事が進んでいたのですが、ポリッシュしていた時にかすかな「ミシッ」という音がしました。
ウヮ~~!嫌な予感です。(汗)
よくよく観察していたら、新たに2か所ひび割れ箇所を発見しました。
もしかしたら更に新たな部分に起きるかもしれません。
ほんの些細なひび割れなのですが重大な結果を引き起こす元なので、もう修理箇所周辺の対処では済まなくなりました。(泣)

なのでせっかくゴール寸前まで来ていたのですが、ここはもう「強度重視」の観点から荒療治ではありますが全体を瞬間接着剤でコーティングすることに決めました。
瞬間接着剤を施す利点は、木部に滲みこむことで表面が丈夫になりガラスコーティングしたように美しくなります。
また、オイルによる手入れも不要となります。
ただし大きなリスクを伴います。
それは、表面がとても硬くなるので凹凸なく滑らかで自然な感じに仕上げるのがとても難しいのです。
また、刻印やデザイン上の僅かな凹部分も基本避けなければいけないのです。

ともあれ作業開始です。
チャンター表面に少しずつ瞬間接着剤をつけては薄く延ばします。
途中から筆付きの瞬間接着剤に切り替えましたが、塗り伸ばした状態のまま固まっていくのでなるべく均一に心掛けます。
↑この作業がかなり難しいのです。
厚く塗りすぎるとサンディングが大変ですが、薄いと木肌が出てきてしまいます。
また、サンディングも注意しないとチャンターホールやその他エッジをダルくしてしまうので、手加減に神経を集中させます。
削っては絶えず指の腹で表面の状態をを感じ取りながら、徐々にサンドペーパーの番数を上げていきます。

最後は仕上げ用コンパウンドで鏡面になるまで持っていきます。

ここから「負のスパイラル」に陥っていったのです。(笑)
ポリッシュの際に、ほんの小さな一部に木肌が現れたのでした。
瞬間接着剤でタッチアップした際に、欲張って危うい他の部分にも瞬間接着剤を付けていったので、また削り直す箇所が増えました。
そうすると更に大丈夫だった部分に木肌が現れます。
自分でも嫌になるくらい作業の繰り返しです。
一番の原因は腕が無いのが最もですが、やはり瞬間接着剤の強固さにあるのです。
表面を滑らかにするあまり周囲の部分にも影響が出てしまうのです。

いったんは木肌部分を銃床オイル仕上げの方法で持って行こうかと何度もチャレンジしましたが、やはりオイルと瞬間接着剤では硬度と輝きが違いすぎます。
この季節、オイル仕上げだと内部まで完全硬化するにはあまりにも時間がかかりすぎます。
オイルを変えたりエアコンでの強制乾燥も試みましたが、ことごとくダメでした。

結局、その後5回ほど瞬間接着剤でチャレンジし、何とか完成まで漕ぎ着けました。(嬉泣)

チャンターを受け取ってから終わるまで約3ヶ月を要しましたが、これはKoiwai にとってのライフワークのような日課になっていました。(笑)
経験上、完成を見る限り問題は無いようなので敢えて音の善し悪しは試さなかったのですが、Mさんからは音も問題なしのお褒めの言葉を頂いた時は本当に安堵しましたね。
逆にこの「日課」が無くなってしまったので、何か寂しさを感じている今日このごろです。(笑)
Mさんからお礼として、お代とは別に大層なシングルモルトのスコッチと超高級なチョコレートまで頂いてしまいました。
チャンターも復帰でき、Mさんからも喜ばれ、Koiwai も勉強でき、本当にバグパイプ修理の冥利に尽きますね。

Mさん、いろいろと有難うございました!
またパイプご一緒したいです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です